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 ……そういや、下部先生がくれたのってなんだったんだろ。
 ベットに寝そべっていじけていた俺は、なんとなく思いついた疑問に体を起こした。
「フゥ……」
 起き上がるだけでため息が出る。
「ハァ……」
 服を着替えるのも面倒臭いし、なんだかもう一気に老けこんだ気分だ。
 やることなすこと全部裏目にでるし。
 そのやることなすことの大半はムダだったし。ああ俺が一体何をした。いや、何もしてないのか。
 人生に対する疲労のようなものまで感じつつ、床に落ちているカバンを開けて、例の白い包みを取り出してみる。
 それはやっぱり、ずっしりとした重みがあった。少なくとも筆記用具とかではなさそうだ。
 丁寧な包装を破けないように開けてみる。
 ごわごわした紙が出てきた。
 取ってみる。
 新聞紙が出てきた。
 へぇ、下部先生、ウチと同じのとってるんだな。……っていうか、なんでこんな厳重なんなんだ先生。
 不気味に感じながらも、新聞も取り除く。
 今度はビニール袋が出てきた。
 同時にひらりと一枚の紙が落ちて、独特のニオイがかすかに鼻をくすぐる。

 ビニール袋に入っているのは、大根の漬物だった。

「……」
 拾いあげた紙には、先生の几帳面な字が並んでいる。

 『お湯と一緒に食べるとおいしいです。
      P.S 自家製だから変なのは入ってないよ。大丈夫。』

「……なんでお湯」
 さすが下部先生。チョイスが微妙だ。
 このP.Sは無添加って意味でいいんだよな? なぜか大丈夫って強調してるけど、裏の意味があるようにしか見えないぞ先生。
 わざわざ付け足して不安要素を増やさないでほしい。変なのってなんだ。
「まあ、でも、うまそうだよな?」
 甘酸っぱい香りが食欲をそそる。やさぐれていたお腹も、ようやく昼ごはんを求めるように空腹を訴えてきた。その感覚が生きている実感を与えてくれて、少しだけ気分が明るくなる。
 よし、じゃあ晩御飯にさっそく出すか。で、オヤジの反応しだいで食おう。たくわんって黄色いのばっかりだったから、こういう白いのは珍しがって自発的に犠牲になってくれるだろ。
 オヤジの胃の許容範囲を計算をしながら、漬物を持って立ち上がる。

 ――……そういえば、陛下はどうなったかな。

 その漬物の色は、ふとあの白い物体を連想させた。
 昨日の朝はあんなに元気だったのにな。一体どんな状況になっているやら。
 見上げればそこに、元気だった頃の陛下の姿が浮かび上がる。

『しもべに言ったらつけあがる! やめろ!』

 そう言ってぶんぶん手を振っていた陛下。
 そうそう、陛下だって下部先生の怖さはわかってたはずなのにな。つけあがるも何も、あんなことしたら怒るだけだってのに。第一つけあがるってのは、優しくされることが前提だろ。陛下のくせに言葉の使い方間違ってるのはどうかと思うぞ。

 ……ん? つけあがる……?

『一応、もう一つ選択肢もあるんだけど……そっちの方がキツイかもなぁ。臭いとかあるし』

 なぜか数時間前の下部先生の声が、耳の奥で聞こえた。
 思わず、手の中の漬物を見つめる。

 におい。
 つけもの。

 つけあがる。

 ……『漬け』あがる?

「………………ま、まさか、な」
 いくらなんでもこじつけだ。そう思っているのに、笑おうとした頬の筋肉がぴくぴくと痙攣しているのを感じる。
 ご、ご飯。そうだ、うん。とにかく昼ご飯を食べよう。いろいろ気が滅入っているから、考え方も危険になるんだ。そうだ。そうに違いない。

 
 その後すぐリビングに行った俺が、昨日茹でておいたゆで卵一パック分を見てよけい落ちこんでしまったのは、まあ別の話。


 グットラック陛下。
 ――願わくば、下部先生から新しい小包が送られて来ませんように。

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