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「暑が夏い、というのはどこがおもしろいんだ?」 「どうしたの笑一君? 突然に」 俺の言葉に、五木は目を丸くして顔を上げた。俺は机に肘をついて顎を支えたまま言葉を続ける。 「夏が暑いを逆に言うギャグらしいんだが、なぜかまったくウケない」 「…………うん。あのね、それはうっかり言っちゃったから面白いんであって、わざと言ってもダメなんだと思うよ」 制服の半袖ワイシャツをつかみながら、軽く首を傾けて五木は言った。こういう時の五木の顔は、笑顔なのになぜか眉が困ったように垂れ下がる。 最近気づいたんだが、どうやらこれは苦笑というものらしいな。一言でいえば楽しくない、と。 いかん、そんな笑い方は邪道だ。笑いの道に反するぞ。 俺は使命感を秘めて、厳かにネタを口にした。 「そうか。くわしいは五木だな」 「だからおもしろくないよ、笑一君」 あっさり流された。 「……そうか。このネタはボツだな」 落胆を顔に出さないようにして、机に広げておいたネタノートに×をつける。最近のネタはどれも不評で困る。世界的に笑いのレベルが上がったんだろうか。 それでなくても、夏というのは人から苛立ちを引き出すというのに。笑わせる方は大忙しだな、まったく。 「ねえ、笑一君」 「なんだ」 「宿題やろうよ。それもある意味お笑いの歴史だけど、ちょっと違うから」 そう言って、『グループ自由課題・お笑いの歴史について』と手書きで書かれたプリントを目の前に突きつけられる。 「わざわざ学校の図書館に来た意味がなくなっちゃうし」 「……そうだな」 外からは、セミの声とサッカー部の掛け声が絶え間なく聞こえてくる。 冷房のかかった静かな空間で、俺は仕方なく机に山積みになった江戸時代の娯楽の文献に手を伸ばした。 ふと思いついて、再び本に視線を落とす五木に言ってみる。 「夏がなついた、なんてどうだろう?」 「イマイチかな」 五木は穏やかながらも、きっぱりとした口調で答えて続けた。 「笑一君、図書館では静かにしないとダメだよ?」 「……すまん」 笑いの道は、かくも厳しい。 |