それぞれの対応〜花少年の場合〜


 家に帰ると、玄関の前にミカンが立っていた。
 食べごろのオレンジ色。小枝のような手足。黒いビー玉のような二つの瞳。
 微動だにしないからただのイタズラかと思った瞬間、気配を感じたのかつぶらな瞳がこちらを見上げて、裂け目そのものの口がカパンと開く。

「ミカンマン参上!」
「…………」

 瞬時に頭が真っ白になった冬芽は、半パニックに陥る頭を抱えてその場にうずくまる。
 頼むちょっと待ってくれ。ミカンって花か? 花なのか!? いや花じゃないだろ!! と、脳内で必死な一人討論開催中。
 そんな彼の足元で、ミカンはぴょんぴょん跳ねて口をパカパカさせて訴える。

「ミカン食え!」

「しかも動いてるし……ありえねぇ……」
 チラリとミカンの姿を確かめて、また頭を抱える。
「まさかピルルン能力がパワーアップ、なんてことは……」
「コタツとセット! お得!」
「なっ!? コ、コタツ!? まさか無機生命体までしゃべるのか!?」
 びくりと震えて立ち上がると、冬芽は北風のように鋭い動きで周囲を探った。
 飛び跳ねるのを止めたミカンが片手を上げてカパンと口を開ける。
「ミカン!」
「いやもうミカンはわかったから! コタツはどこだ!?」
 周囲にいないことがわかると、ミカンに詰め寄り両手でつかむ。その表情は必死だ。
「いないのか? 見張ってるのか? そもそもなんでコタツなんだ?」

「ミカン、食べない?」
「食べる食べないの問題じゃない。そもそもミカンが話すなんておかしいだろ? おかしいよな? な? ……まさかお前、実は変態なミカン、だなんてことないよな?」

 言葉が通じたのか、ミカンは素直にコクリとうなづいた。
「そ、そうか。うん、ならいいんだ。……ただその、俺はもう他の状況で手一杯というか、その……できれば違う場所に行ってもらえると助かるんだけど」
 ぐったりした様子の冬芽に、ミカンは少し沈黙したあと再びコクリとうなづいてその場を立ち去った。


 ――その夜、冬芽の部屋からは、コタツが迫ってくるとうなされる声が聞こえたそうだ。

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