ねこ、じゃらし


 夜は嫌いだ。特に冬の夜は。あの、全身にまとわりつくような重苦しい闇が、不快な過去を思い出させるからだ。
 ――思えば、あの日の私は幼かった。
 他者に興味を持たず、それが原因で母親と口論になり、腹立たしさと頭に血が昇った勢いから寒空の中へと飛び出した。行き先も準備も何もない。実に浅はかな行動だった。やがて走り疲れて立ち止まり、吐く息の白さに意識を向けられるようになった時には、すでに走ったことによる体の温もりなど消え失せていた。指先が痺れるようにかじかんで、コートに手袋を入れていなかったことを後悔したものだ。
 目の前にあるのは闇。月明かりはなかった。おそらく分厚い雲によって覆われていたのだろう。とはいってもしょせんは十を過ぎた程度の子供の足。全力の疾走でも町内から出ることは出来ず、闇の中でもうっすらとだが、吐く息が見える程度の明かりはあった。立ち止まった道の両脇には見上げるほどの塀がそびえ立ち、その向こう側から漏れる家々の光が、建物の輪郭がわかる程度の明かりをもたらしていたのだ。ただ、その光はより闇を際立たせる役目しか果たしておらず、幼い私の目には、塀と地面の境い目にヘドロのようなどす黒い闇が延々とこびり付いているように見えるだけだった。それでいてそのじっとりとした闇は、電柱に設置された頼りない電球に照らされ、刺すような冷風が吹くたびに苦痛に身を捩るかのように蠢くのだ。
 ぞっとする寒さと暗さ。ひゅっと吸いこんだ空気は、まるで氷の膜のように臓腑の内側を蝕んでいく。そうして芯から冷えていく体とは対照的に、私の頭にはどうしようもないほどの煮えたぎる怒りが沸きあがっていた。なぜ、自分だけが不当に、こんなに暗くて寒くて不愉快な目に遭わなくてはいけないのか。それでなくても、どいつもこいつも愚かなクズとしか感じられない性格だった私には、寒さに震えた自分を差し置いて、明るい家の中にいる人間が存在することが許せなかった。
 幼い私は怒りに任せて地面を踏みつけ、カチカチと震える歯を闇を噛み砕くつもりでわざと強く鳴らしてみせた。そう、この口は恐怖や寒さで鳴っているわけではない、敵と闘っているのだ、と自分に、そして、いもしない他人に知らしめるために。まったく、実に子どもらしく、いたいけな行動ではないか!

   ああそうだ。――だからこそ。

 巡らせた視線の中。小さな鳴き声を聞いた私の、あの一連の行動も、悪いのは子どもには重すぎた冬の闇だ。自発的ではないのだから、決して私に非はない。当然だ。私という人間に、失敗などというものはありえないのだから。
 あの時のことは、今でも鮮やかに思い出せる。
 ヘドロの闇を生み出している電柱。その影に隠れるように置かれた四角い物体。聞こえてくる、か細い鳴き声。突然の生物の音に一瞬大きく震えた私の体は、けれどその声の弱々しさに勇気を取り戻した。幼い私は勇敢にも四角い物体に近づいて、それがダンボールだと理解する。蓋は開いていた。いや、そうではない。無残に破られて存在していなかったのだ。
 そして、中にいたのは一匹の小汚い猫だった。
 私の吐く白い息越しに、小さな獣の瞳が映る。体毛に濃い縞模様があったような気もするが、私が何よりも覚えているのは、闇夜にも関わらず黄色く光る瞳だ。まるでこちらを照らしつける一対の小型ライトのように、その瞳はまっすぐに幼い私を見ていた。まばたきすらしない瞳。その目がわずかに細まり、「それ」は再びか細い鳴き声を発した。三日月のように曲がった視線は、より照準を絞って幼い私を照らす。まるで私の内部まで照らしつけて眺めるように、強く、鋭く、辛く、貫く、視線。
「――っ!」
 怒りが赤い閃光のように脳に弾ける。
 あの細まった瞳。笑っている。笑っていやがる。この私を。何様だ。惨めで哀れな動物のくせに、私を嘲笑う? ありえない。畜生の分際で。クズが。クソが。
 ああ、今思い出しても腹が立つ。だからこそ、幼い私は「それ」に相応の立場を教えてやろうと思い手を伸ばした。私の行動に驚いたのか、「それ」は思いのほか俊敏な動きでダンボールの端へと飛び退く。空ぶった私の手は、ダンボールの底に落ちていた何かに触れた。拾い上げてみると、「それ」はピクリと耳を動かし、前足を上げて、私の右手に握られた物に手を伸ばしてきた。避けてもしつこく交互に両手を上げて追いすがる。
 手の中にあるのは、先端に綿状の房がついた一本の枯れた雑草。
 こんなものが何なのか。ただ、「それ」が目を大きく見開き、私を見つめるよりもギラギラと輝かせて一心不乱に求めてくる姿が気にくわなかった。まるで私が、たかが雑草如きに劣っているとでも言うかのような行動。そう考えるだけで怒りが冷え切った体内に巡って体を震わせる。
 だから幼い私は、雑草に目を奪われている「それ」の隙を巧みについて、奴の片耳を空いていた手で捻り上げてやった。軟骨を潰すようなコリコリした感触と同時に、今までとは違う短く甲高い鳴き声が一つ響く。その声に、寒さとは別のぞくりとするような心地よさを覚えた。私を見上げる「それ」の瞳に明らかな怯えの色が生まれる。ああ、いいザマだ。私が見たかったのはこれだ。本来あるべき姿もこれだ。夜の闇の中、怯えて臆病に泣くべきなのは私ではなく、私の両手程度の大きさしかないこの薄汚い生き物の役割に決まっている。
 それなのに。
 怯えの混じった「それ」の瞳は、それでもなお輝きながら幼い私を見つめていた。輪郭すら紛れてしまいそうな暗闇の中、それはまるで闇の化け物のために作られた一対の瞳のようでもあった。でもそれはしょせん小動物の瞳。怯えながらも生意気に私を見上げてくる瞳。私という人間を、否定するかのように揺らぐことなく見つめてくる瞳。快感が不快感に変わっていく。許せない。許せない許せない許せない。そんなことは許さない。
 だから。だから私は――……

 気づけば、「それ」は動かなくなっていた。

 瞳を閉ざして横たわる「それ」は、こうしていれば本当にただのちっぽけな獣だった。ぴくりとも動かない。……動かない? だからなんだ。動かないから死んだということにはならない。第一どこからも血が出ていない。幼い、だが聡明な私は知っていた。死というものは血が伴うものだ、と。だから「それ」はただ地に伏して私に逆らわなくなっただけだ。死んでいなければ殺していない。だから私は何も悪くなどないのだ。それに例え死んでいたとしても、あのとき全身に充満していた、痺れるほどの快感に比べれば大したことではない。
 満足だった。充足感から大きく息をつき、その空気の冷たさに身震いをした瞬間、おもむろに叩きつけるような突風が吹いた。
 とたん、右目に衝撃が走る。
 突き刺さるような痛みに反射的に手を上げると、そこに何かが落ちてきた。それは今まで私の右手にあった例の雑草だった。突風で手をすり抜け、右目に直撃したらしい。
「――っけんなッ!」
 地面に落ちた雑草を踏みつける。風に押されて地面を卑しく這っていた雑草は、私という圧倒的な存在に踏みにじられてあっけなく潰れた。それでも気が済まない。何度も何度も地面になすり付けてやる。その間にも、先端についていた房がただの毛になり、いくつかは風と闇に紛れて消えていった。
 雑草がただの残骸になったころ、頬に恐ろしく冷たいものが触れた。ついに厚く覆った雲から雪が降り始めたのだ。あまりの寒さに私はあわてて家に帰ろうと踵を返し、最後に一度だけ「それ」を見た。
 潰れた残骸。破れたダンボール。私にひれ伏し動かぬ物体。
 静寂だけがそこにあった。あまりの音のなさと、変わらずに蠢く周囲の闇に、私の体は無意識に震えた。まるで怯えているかのような体の反応に、再び不快感が脳を支配する。視界に入る映像がその不快感をさらに増長させた。まるで「それ」から生じ、こちらに向かって纏わりついてくるような重苦しい闇。すぐにもまたあの黄色い瞳が私を睨みつけてくる気がする。あの、闇に浮かぶ瞳。黄色い、漆黒の中で輝く、瞳が。
 耐え切れなくなった私は闇を振りほどき、がむしゃらに走って家路についた。親には怒られたが、何事もなくベットに入れる。当然だ。愚かな親には私の生活を守る義務があるのだから。
 私に温かな寝床が用意されているころ、凍える雪が降る地面で私にひれ伏し続ける存在がいる。そう考えると、たまらないほどの喜びを感じた。正しいことはいつだって、私に喜びを与えてくれる。素晴らしいことだ。だからそのことだけを考えて、私は眠りについた。次の日も、また次の日も。
 だが、それでもあの時感じた不快感だけは、数十年経った今でも消えることなく残り続けていた。冬の闇を見ると、特に。




 目覚ましが鳴り、私は過去の回想から気を取り戻した。
 どうやらタイマーを切るのを忘れていたらしい。十時を指した時計のスイッチを止め、私はしっかりとカーテンの掛けられた窓から机へと視線を戻した。
 無駄なことをした。そんな後悔が一瞬だけ胸をよぎり、私はすぐに手元の書類に目を通し始める。無駄なことを無駄だと思うこと。それこそがまさに無駄だからだ。
 私は常に正しい。それは私の今の地位からも証明できる。
 私の視線は机の隅に追いやっていた手紙に移った。私が支援してやっている園からの手紙だ。数ヶ月ほど放置していたが、気が向いた私は手紙を手に取って中身を開けた。
 中に入っていたのは、手紙と平たい一枚の小さな紙。そして紙に付属した何か小麦色の物がチラリと見える。手紙には惨めなほどに拙い文字で、ひらがなばかりの文章が書かれていた。

『だいぎしのせんせいへ
 だいぎしさんのおかげで、ぼくたちはまいにちげんきでくら
 しています。ほんとうにありがとうございます。きょうはお
 天気がよかったので、おさんぽしてひろった草花でしおりを
 つくりました。                     』

 そこまで読んで私は手紙を中に戻し、封筒ごと破りすてた。まさに時間の無駄。あまりにも無能すぎる内容に、読んでいるこちらの頭まで悪くなりそうだ。それに今回の選挙で当選した私には、あの福祉施設などもう用済みの物でしかない。使えないものは切り捨てる。それが愚かな他人の利用法というものだ。
 私は机の下にあるゴミ箱に手紙を投げ捨て、再び書類に目を戻した。

 ―― ゥ 

「……なんだ?」
 なにか、声がしたような気がした。この家は定時を過ぎれば私以外は誰もいないはず。周囲を見渡し、最後に背後を振り返る。誰もいない。疑問に苛立ちながらも机に視線を戻しかけ、そして、私は動けなくなった。
 ――ナォウ
 今しがた、手紙を捨てた、円筒状のゴミ箱。
 その底。そこに、いたのは。漆黒の闇と灰色の縞模様を持つ、薄汚い一匹の猫だった。
「なっ……!」
 私の口から声が漏れる。
 ありえない。何もいなかった。何もいるはずがない。戸締りは完璧だし、この地域周辺はノラ猫は徹底的に駆除されているはずだ。私がそうさせたのだから間違いない。それに「それ」はあの後、世間の口にも上ることなく密やかに切り捨てられ
 ――ナォウ
 私の思考は、目の前の猫の鳴き声に遮られる。口に咥えたあの雑草。小麦色の、先端に毛のような房のついたあれは。あの時の。
 そもそも、なぜ咥えているのに鳴くことが出来る?
 長い尻尾がゆらりと揺れる。混乱する私をよそに、猫は前足をゴミ箱の縁にかけた。そして箱から足のバネを使って這い出てこちらへ。……こちらへ? そうだ。奴は私の方へ来る。
「っ!」
 考えるよりも先に、私は壁際に置いてあるゴルフバックへ駆け寄った。あわてながらも何とか一本クラブを取り出し、再度猫へと視線を向ける。
「それ」はやはり私を見ていた。あの頃と同じように黄色く輝く一対の瞳。白い照明の下で輝く瞳は、だが闇夜で浮かんでいたときのように異質の色を放っていた。ひれ伏していたはずの瞳が、今は私を見上げている。
 そして。
 ――ナォウ
 今度こそ。

「それ」は完璧に瞳と口を歪ませ、笑った。

「っの、生ゴミの分際でッ!」
 幼い頃よりも深い怒りが脳を焼く。笑った。哂った。笑った!見下した。私を見上げる立場のくせに、この私を。見下しやがった!
 振り下ろしたクラブはゴミ箱を掠って横転させた。けたたましい音が響き、私の心臓や腕までも震わせる。そんな状況でも「それ」は逃げる仕草も見せない。笑っている。ひたすらに私を見上げて笑っている。口に咥えた雑草が同調するかのように不愉快に揺れた。笑っている。笑いながら「それ」が前足を動かしかけた直後、私の手のひらに生々しい感触が伝わった。
 気づけば、クラブのヘッドは完全に「それ」の背中に埋まっていた。それにより、緩やかな半円を描いている「それ」の背が不自然なほど変形している。思わずクラブから手を離す。
 茶色に枯れていた雑草が、「それ」の口から広がる液体を吸い上げ、じょじょに黒く染まっていく。それに伴い、嗅ぎ慣れない異臭が床から部屋の空気へと漂い混ざる。
 血が。血が?
 ちが。
 ちがう。
 違う。私は間違っていない。こ、こんな汚らしい獣。もしかしたら何か菌を保有している可能性がある。だから私は駆除を。そうだ。私は正しい。間違っていない。この地位まで上った私が、聡明な私が、間違いを犯すはずがない。
 何かを、私を救うべき何かを探して泳ぐ私の目が、床に落ちた封筒を見咎める。ゴミ箱が倒れた拍子に床にこぼれたそれは、一枚の小さな長方形の紙を吐き捨てていた。
 長方形の上に穴が開き、リボンがつけられている。おそらくしおり。いや。それよりも。
 その紙に貼りつけられているものは、過去に私の右目の網膜をわずかに傷つけ、今は闇色に染まってしまった雑草だった。数十年ぶりの邂逅。その下には、手紙同様の拙い字で六文字。

   ねこじゃらし

「――っ」
 息を呑むより早く、玄関のチャイムが鳴った。
 誰かが来た。誰かが。
 私は一瞬「それ」を見下ろし、ほとんど小走りで玄関へ向かった。その最中に体に何もついていないか確認する。部屋には入れられない。だが。ダメだ。なんでもいい。いやダメだ。とにかくこの状況を。誰でもいい。私を。
 無我夢中で玄関を開けると、縞模様が目に入る。息が止まる。身構えそうになったが、それは制服を着た人間だった。
「夜分遅くにすいません。宅配便です」
「あ、ああ……」
 漏れた息は、冷え切った両手と反して生暖かかった。
 私は力を抜きながら届いた荷物を見下ろし――今度こそ完全に硬直した。
 ダンボールの表面にびっしりと隙間なく書かれた絵。
 ねこじゃらし。
「それで、すいませんけどサインか判子――」
「う、うゎあああああ!」
 縞模様の男を突き飛ばし、全力で玄関のドアを閉める。震える手で必死に鍵を掛けようとするが、上手くいかない。
 ドアの向こうで、くぐもった男の声がした。
「あの、すいませ」
「帰れッ! 二度と来るなッ!」
 怒鳴りつけ、ようやくドアの鍵も閉まる。動悸が止まらない。私は震える肩で息をして、冷静になるために地面を見つめながら呼吸を整えた。
 落ち着け。私は何を馬鹿なことを。ただの偶然、いや、だとしても悪質な悪戯だ。誰だ。誰がやった。絶対に見つけだしてやる。ゼッタイに……
 その視線の先で。
 ドアと地面の隙間、わずか数ミリの間から、押し出されるコピー紙のように、にゅるりと「それ」が入ってきた。
「え? ……ひっ、う、ぁあああああ!?」
 ありえない。
 ありえないありえないありえないありえないありえない。
 それでも「それ」は口にねこじゃらしを咥え、やはり歪んだ笑いを浮かべ、そしてギラつく黄色い視線が私を貫いていた。
 後ずさり、私は脇目も振らずに廊下を駆ける。
 ――ナァオ
 背後から鳴き声がする。なんで生き返ったんだ。なんでなんでなんでなんで。走る。私室へ。走る。あと数歩。背後の気配は多少は遠い。なら、部屋に戻って鍵を掛ければ――
 だが。
「な、ぜ……」
 私室にはやはり、血に染まった猫の死体が落ちていた。
 先ほどとまったく同じ位置に。何も変わらず。無音の空気。カーテン越しの冬の闇のように、簡潔に完結した世界がそこにはあった。
 そして。
 ――ナァオ
 背後からの声も、変わらず私の耳に響いた。
「ひっ、う、あっ、あ」
 私は呼吸も定まらないまま、再び走る。もつれる足を構う余裕もなく廊下を真っ直ぐに走り、居間へ。客に見せびらかすための毛皮を蹴飛ばし、庭へと繋がる窓へ向かう。そこから外へ。そして、そしてどこかに救助を。化け物だあれは。私は悪くない。悪いのは、悪いのはこの外にある闇が!
 見た目重視で重ったるいだけのカーテンを引っつかみ、私はそのままバランスを崩して床に倒れた。布が破ける音が鼓膜を揺さぶり、眼前に闇に染まった庭が広がる。

 ねこじゃらし。
 庭全体に、ただそれだけが生えていた。

 私は、こんなもの、知らない。
 ねこじゃらしなんて名前も、知らなかった。ねこじゃらし? 猫がじゃれるからか? なら。それなら。あの日。あの雑草に必死で食いついてきたのが、ただ、じゃれていただけなのなら。それなら。……それなら? なら、なんだというんだ。私は悪くない。私のせいではない。腹が立っていたから。寒かったから。暗かったから。だから、すべては夜の闇のせいだ。私に間違いなんてない。間違っていない。
 ――ナァオ
 背後で鳴き声がする。
 パキ
 そこに異質な音が混じった。簡単なことだ。目の前に広がるねこじゃらしが折れて、その根元から「それ」が発生する音。
 ――ナァオ
 ――ナォア
 二重になった鳴き声。前方の「それ」は自分が発生したねこじゃらしを咥え、私と己を隔てる窓ガラスを引っ掻きはじめる。
 そして背後の「それ」は、また一歩、私に近づいた。気配は、もう足元まで来ている。
 ああ、そうか。一つだけ理解できてしまった。
 それは、例えどこへ逃げても「それら」はどこまでも追いかけてくるだろうという確信。そう、こうして、闇の中どこまでも増殖して鳴いて瞳をギラつかせる猫の群れのように。あの手この手をつかって、私という存在にどこまでも追いすがる。
 まるで、私にじゃれつくかのように。どこまでも。永遠に。ほら、また黄色の瞳が私を見つめる。増える。増えていく。ああそんな目でみないでくれ。まぶしい。違う。違う。私じゃない。どうして私を見るんだ。ちがう。わたしは。わるく な、

 ――ナァオ

 そして。足に、重い闇からの手が触れた。

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あとがき